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「海の向こうには、私の国には無い音楽が沢山あると聞いて御座りました。──それをどうしてもこの耳で聴いて、この心で感じたかったので」
一体どういう幸運と因果に恵まれたのか。
清国経由の貿易船に潜りこんだ末、幾度も遭遇しただろう危険も摘発もすり抜け、まんまとイタリアに不法入国まで果たしてしまった不思議な東洋人の尋問中。彼は唯一言葉の通じたジョットに向けてあっけからんとそう言い放ったという。
「それで、国を飛び出して船に乗ったんだそうだ」
やれやれ困ったものだ、と首を振って、しかし表情は隠すこともなく楽しそうなまま、俺に事の顛末を語ったジョットは声を弾ませて続けたものだった。「……通訳してやったときのアラウディの顔といったら、見物だったぞ」
なあ? と振り返る先には、裾の長い見たこともない衣服を纏った東洋人がいて、ああこいつがそうなのだなと聞かずとも察せられた。
視線の先、男は何やら思案気な表情をしてジョットに小首を傾げてみせた。
「……、………?」
薄い唇から発せられた言葉は、数ヶ国語を解する俺も聞いたことのないものだった。
「ああ、紹介が遅れたな。こいつはG。俺の幼馴染みだ。…G、こいつは雨月という。日本国の出身だそうだ」
イタリア語は通じないという話だったが、ジョットの言葉を聞いた異国人はこちらに向け柔らかく笑み、頭を下げる東洋風の礼をした。ほら、とジョットが促して、次いで手が差し出された。
「────よろしく」
握手を交わしながら、黒く深い瞳にじっと見つめられて。それにどうもひどく居心地の悪さを覚えた。
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ずっと考えてるんだけど遅々として進まない初代話をもういっそ途中までブログに置いてみる。
きっと雨月は山本が野球好きなのと同じくらい音楽が好きで
穏やかに見えてものすごく自由奔放に大胆なことをしでかす人だと思ってます。